ジムニーは、その優れたオフロード性能で知られる人気の4WD車です。
しかし、ジムニーには純正のデフロックが装備されていないことをご存知でしょうか?
デフロックとは、オフロード走行で車両の走破性を高める重要な機能ですが、なぜジムニーにはこの装備がないのでしょう?
実は、ジムニーがデフロックを搭載しない理由は、そのユニークな設計思想に隠されています。
ジムニーは、パートタイム4WDシステムを採用し、前後輪を直結させることで高い走破性を実現しています。
この設計により、デフロックがなくてもオフロードを走破できるのです。
また、ジムニーにはセンターデフが存在せず、代わりにブレーキLSDトラクションコントロールが標準装備されています。
これは、空転するタイヤにブレーキを掛けることで、反対側のタイヤに駆動力を伝える機能です。
LSDの効果と合わせて、ジムニーは優れたオフロード性能を発揮します。
歴代のジムニーを見ても、JA11にはリアデフロックがオプション設定され、JB23には純正のデフロックが設定されていません。
しかし、これはジムニーの設計思想に基づいた選択なのです。
本記事では、ジムニーがデフロックを搭載しない理由を探りながら、その独自の技術と設計思想に迫ります。
デフロックの役割と必要性を理解し、なぜジムニーにデフロックが不要なのか、その秘密を解き明かしていきましょう。
この記事のポイント
- デフロックの役割と必要性について
- ジムニーがデフロックを搭載しない技術的な理由
- デフロックがなくてもジムニーが高い走破性を発揮できる仕組み
- ジムニーの歴代モデルにおけるデフロック設定の違いとその背景
ジムニーにデフロックがない理由とは?
デフロックの役割と必要性
デフロックは、オフロード走行において車両の走破性を高める重要な機能です。
デフロックの役割は、左右のタイヤに均等に駆動力を配分することにあります。
通常、車両が旋回する際には、内側のタイヤと外側のタイヤで回転差が生じます。
この回転差を吸収するのがデファレンシャル(デフ)の役目ですが、片方のタイヤが空転している状況では、デフが機能することで反対側のタイヤに駆動力が伝わらなくなってしまいます。
このような状況でデフロックを作動させると、左右のタイヤを強制的に同じ回転速度で回転させることができるため、片側のタイヤが空転していても、もう片方のタイヤに確実に駆動力を伝えることが可能となります。
オフロード走行では、タイヤが浮いたり、泥や砂に埋もれたりと、片側のタイヤが空転しやすい状況が多く発生します。
デフロックは、このような過酷な環境下でも車両の走破性を維持するために必要不可欠な装備なのです。
ただし、デフロックは舗装路での使用には適していません。
旋回時に内外輪の回転差を吸収できなくなるため、タイヤに無理な力がかかり、駆動系に大きな負担がかかってしまうからです。
そのため、デフロックの使用は、あくまでもオフロードなどの低速走行時に限定されます。
日常的な走行では、デフロックを解除し、デファレンシャルに回転差を吸収させる必要があります。
デフロックの必要性は、車両の用途によって異なります。
オフロード走行を頻繁に行うような車両では、デフロックは必須の装備と言えるでしょう。
一方、舗装路での走行がメインの車両では、デフロックの必要性は低くなります。
用途 | デフロックの必要性 |
---|---|
オフロード重視 | 高い |
オンロード重視 | 低い |
以上のように、デフロックはオフロード走行に特化した機能であり、車両の走破性を大きく左右する重要な装備です。
しかし、その必要性は車両の用途によって異なるため、自分の車の使用目的に合わせて、デフロックの装備を検討する必要があります。
パートタイム4WDとデフロック
ジムニーは、オフロード走行に特化したパートタイム4WDシステムを採用しています。
パートタイム4WDは、2WDと4WDを切り替えられる方式で、燃費性能と走破性を両立させることができます。
ジムニーのパートタイム4WDは、トランスファーレバーによって2H(2WD-高速)、4H(4WD-高速)、4L(4WD-低速)の3つのモードを選択可能です。
2Hは後輪駆動、4Hと4Lは前後輪駆動となります。
このシステムの特徴は、前後輪を直結させる点にあります。
4WDモードでは、フロントプロペラシャフトとリアプロペラシャフトが直結され、前後輪に同じ回転力が伝わります。
これにより、高い走破性を発揮することができるのです。
しかし、前後輪が直結されているため、舗装路での4WD走行は好ましくありません。
旋回時には前後輪で回転差が生じるため、駆動系に大きな負荷がかかってしまうからです。
そのため、ジムニーのパートタイム4WDは、あくまでもオフロードでの使用が前提とされています。
舗装路走行時は2WDモードに切り替え、燃費性能を優先することが求められます。
ここで問題となるのが、デフロックの有無です。
前述の通り、デフロックは左右のタイヤを強制的に同じ回転速度で回転させる機構ですが、ジムニーには純正のデフロックが装備されていません。
その理由は、ジムニーが採用するパートタイム4WDの特性にあります。
前後輪が直結されているため、デフロックを装備すると、旋回時の操縦安定性が大きく損なわれてしまうのです
また、デフロックの装備はコストアップにもつながります。
ジムニーは、シンプルな機構で高い走破性を実現することを目的としているため、デフロックを敢えて装備していないのです。
ただし、これはあくまでも純正仕様の話であり、社外品のデフロックを後付けすることは可能です。
デフロックを装備することで、より高い走破性を得ることができますが、その分、舗装路での使用には注意が必要となります。
4WDシステム | デフロックの有無 | オフロード走破性 | オンロード操縦安定性 |
---|---|---|---|
パートタイム4WD | なし(純正) | ○ | ○ |
パートタイム4WD | あり(社外品) | ◎ | △ |
このように、ジムニーのパートタイム4WDとデフロックの関係は、オフロード性能と操縦安定性のバランスを取ることが重要だと言えます。
純正仕様では、デフロックを装備しない代わりに、シンプルな機構で高い走破性と操縦安定性を両立させているのです。
センターデフとタイトコーナーブレーキング
ジムニーは、前述の通りパートタイム4WDシステムを採用しており、前後輪を直結させることで高い走破性を実現しています。
しかし、このシステムには、センターデフが存在しないという特徴があります。
センターデフとは、前後輪の回転差を吸収する機構のことを指します。
一般的な4WD車では、このセンターデフが装備されており、舗装路での旋回時に前後輪の回転差を吸収することで、スムーズな旋回を可能にしています。
しかし、ジムニーのパートタイム4WDには、このセンターデフが存在しません。
そのため、4WDモードでの舗装路走行時には、旋回時に前後輪の回転差が吸収されず、タイヤが引きずられるような現象が発生します。
これが、タイトコーナーブレーキングと呼ばれる現象です。
タイトコーナーブレーキングが発生すると、旋回時の操縦安定性が損なわれるだけでなく、駆動系に大きな負荷がかかってしまいます。
そのため、ジムニーの取扱説明書でも、4WDモードでの舗装路走行は避けるよう明記されています。
この現象は、ジムニーがオフロード走行に特化した車両であることに起因しています。
オフロード走行では、旋回時の前後輪の回転差よりも、高い走破性が求められます。
そのため、ジムニーではセンターデフを装備せず、前後輪を直結させることで、高い走破性を優先しているのです。
ただし、センターデフを装備していないことによるデメリットも存在します。
それは、4WDモードでの旋回性能の低下です。
タイトコーナーブレーキングによって、旋回時の車両挙動が不安定になるだけでなく、最小回転半径も大きくなってしまいます。
4WDシステム | センターデフの有無 | オフロード走破性 | オンロード旋回性能 |
---|---|---|---|
パートタイム4WD | なし | ◎ | △ |
フルタイム4WD | あり | ○ | ◎ |
このように、ジムニーのパートタイム4WDは、センターデフを装備しないことで、高いオフロード走破性を実現している一方で、オンロードでの旋回性能には課題があると言えます。
しかし、これはジムニーがオフロード走行に特化した車両であることを考えれば、ある程度は仕方のないことだと言えるでしょう。
オンロードでの旋回性能を重視するのであれば、センターデフを装備したフルタイム4WDの車両を選ぶ必要があります。
ジムニーのオーナーは、このパートタイム4WDの特性を理解した上で、適切に4WDモードを使い分けることが求められます。
オンロードでは2WDモードを使用し、オフロードでは4WDモードを活用する。
これが、ジムニーを最大限に活用するためのポイントだと言えるでしょう。
フリーホイールハブとその進化
ジムニーのパートタイム4WDシステムには、フリーホイールハブという機構が採用されています。
フリーホイールハブは、2WDモードの際に、フロントタイヤとフロントプロペラシャフトを切り離す役割を担っています。
従来のジムニーでは、このフリーホイールハブを手動で操作する必要がありました。
2WDモードから4WDモードへの切り替え時には、車外に出てハブをロックし、4WDモードから2WDモードへの切り替え時には、再度車外に出てハブをフリーにする必要があったのです。
この手動式のフリーホイールハブは、操作に手間がかかるだけでなく、フロントタイヤとプロペラシャフトの接続が不完全な場合、駆動系に大きな負荷がかかるというデメリットがありました。
しかし、近年のジムニーでは、このフリーホイールハブが進化を遂げています。
現行モデルでは、電子制御式のフリーホイールハブが採用されており、運転席からボタン一つで2WDと4WDのモード切替が可能となっています。
この電子制御式フリーホイールハブは、油圧アクチュエーターによってハブのロックとフリーを自動で切り替えます。
これにより、運転者はモード切替の操作に煩わされることなく、スムーズに2WDと4WDを使い分けることができるようになりました。
また、電子制御式のフリーホイールハブは、手動式に比べて確実にロックとフリーができるため、駆動系への負荷も軽減されます。
これは、ジムニーの耐久性向上にも寄与していると言えるでしょう。
フリーホイールハブ | 操作方法 | 駆動系への負荷 | モード切替の利便性 |
---|---|---|---|
手動式 | 車外でハブを手動操作 | 大 | 低 |
電子制御式 | 運転席のボタンで自動切替 | 小 | 高 |
このように、ジムニーのフリーホイールハブは、手動式から電子制御式へと進化を遂げることで、利便性と耐久性の向上を実現しています。
特に、電子制御式のフリーホイールハブは、ジムニーのパートタイム4WDシステムを最大限に活用するために欠かせない装備だと言えます。
2WDと4WDのスムーズな切り替えを可能にすることで、オンロードとオフロードを問わず、ジムニーの性能を十分に引き出すことができるからです。
ジムニーのオーナーは、このフリーホイールハブの進化を理解し、適切にモード切替を行うことが重要です。
電子制御式のフリーホイールハブを活用することで、ジムニーのポテンシャルを最大限に引き出し、オンロードでの快適性とオフロードでの走破性を両立することができるでしょう。
ブレーキLSDトラクションコントロール
ジムニーには、オフロード走行をサポートする様々な機能が搭載されていますが、その中でも特に重要なのが、ブレーキLSDトラクションコントロールです。
ブレーキLSDトラクションコントロールは、電子制御によって車両の走破性を高める機能です。
通常、オフロード走行では、車輪が空転したり、浮いたりすることで、十分な駆動力が得られない状況が発生します。
そこで、ブレーキLSDトラクションコントロールが働きます。
このシステムは、空転している車輪にブレーキを掛けることで、その車輪への駆動力を抑制し、反対側の車輪に駆動力を集中させる働きを持っています。
これにより、車両全体の駆動力を効果的に路面に伝えることができ、走破性が大幅に向上するのです。
ジムニーのブレーキLSDトラクションコントロールは、4WDの低速走行時(4L)に自動的に作動します。
センサーが各車輪の回転速度を検知し、空転している車輪を特定。
その車輪にのみブレーキを掛けることで、駆動力の最適化を図ります。
これは、機械式のデフロックと似た効果を持っていますが、大きな違いがあります。
デフロックは左右の車輪を強制的に同じ回転速度で回転させるのに対し、ブレーキLSDトラクションコントロールは、あくまでも空転している車輪への駆動力を抑制するだけです。
そのため、旋回時などに車輪の回転差が必要な場面では、スムーズな走行が可能となります。
また、ブレーキLSDトラクションコントロールは、デフロックのように手動で操作する必要がありません。
自動的に作動するため、ドライバーは走行に集中することができます。
ただし、ブレーキLSDトラクションコントロールにも限界があります。
極端に滑りやすい路面や、車輪が完全に浮いてしまうような状況では、十分な効果を発揮できない場合があります。
そのような過酷な条件下では、機械式のデフロックの方が有利と言えるでしょう。
システム | 作動方式 | 効果 | 操作 |
---|---|---|---|
ブレーキLSDトラクションコントロール | 自動 | ○ | 不要 |
機械式デフロック | 手動 | ◎ | 必要 |
このように、ジムニーのブレーキLSDトラクションコントロールは、オフロード走行における走破性を高めるための重要な機能です。
電子制御によって自動的に作動し、空転車輪への駆動力を最適にコントロールすることで、車両の性能を最大限に引き出すことができます。
もちろん、極限的な状況下では、機械式のデフロックの方が優れているケースもありますが、一般的なオフロード走行においては、ブレーキLSDトラクションコントロールで十分な性能が得られると言えるでしょう。
ジムニーのオーナーは、このブレーキLSDトラクションコントロールの特性を理解し、オフロード走行に活用することが重要です。
この機能を上手く使いこなすことで、ジムニーの本領である高い走破性を、より安全に、より効果的に発揮することができるはずです。
ESP(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)
ジムニーには、走行安全性を高めるための先進技術として、ESP(エレクトロニック・スタビリティ・プログラム)が搭載されています。
ESPは、車両の挙動を電子制御によって最適化する機能です。
ESPは、各車輪の回転速度や車体の横滑り、ステアリング操作などをセンサーで常時モニタリングしています。
そして、車両が不安定な状態になったと判断した場合、自動的にブレーキや駆動力を制御することで、車両の安定性を確保します。
例えば、滑りやすい路面でのコーナリング中に車両が横滑りを始めたとします。
ESPはこれを検知し、横滑りを抑えるために、外側の前輪にブレーキを掛けます。
同時に、エンジンの出力を抑制することで、車両の挙動を安定させるのです。
また、アンダーステアやオーバーステアが発生した場合にも、ESPが介入します。
アンダーステアの場合は内側の後輪にブレーキを掛け、オーバーステアの場合は外側の前輪にブレーキを掛けることで、車両の姿勢を立て直します。
このように、ESPは様々な走行状況下で車両の安定性を確保する役割を担っています。
特に、ジムニーのようなオフロード車両では、路面状況が刻々と変化するため、ESPの存在が大きな意味を持ちます。
ただし、オフロード走行では、車両の挙動を意図的にコントロールしたい場面もあります。
そのため、ジムニーのESPには、ESP OFFスイッチが用意されています。
これを操作することで、ESPの介入を一時的に停止することができます。
ESP OFFモードは、あくまでも熟練したドライバーが、特定の状況下で使用するための機能です。
一般的な走行では、ESPを常時オンにしておくことが安全運転につながります。
走行状況 | ESPの効果 |
---|---|
コーナリング時の横滑り | 車両の安定性を確保 |
アンダーステア | 内側の後輪にブレーキを掛け、車両の姿勢を立て直す |
オーバーステア | 外側の前輪にブレーキを掛け、車両の姿勢を立て直す |
このように、ジムニーのESPは、オンロードからオフロードまで、様々な走行状況下で車両の安定性を高める重要な機能です。
電子制御によって車両の挙動を最適化することで、ドライバーの安全運転をサポートします。
もちろん、ESPはドライバーの運転技術を補助するためのシステムであり、万能ではありません。
ESPの介入に過度に依存することなく、適切な運転操作を心がけることが重要です。
ジムニーのオーナーは、このESPの特性を理解し、状況に応じて適切に活用することが求められます。
一般的な走行ではESPをオンにし、安全性を確保しつつ、オフロードなどの特殊な状況下では、ESP OFFモードを使い分ける。
このバランス感覚が、ジムニーを安全かつ効果的に操る鍵となるでしょう。
デフロックなしでもジムニーの走破性が高い理由
3リンクリジッドアクスル式サスペンション
ジムニーのサスペンションシステムは、オフロード走行に最適化された設計となっています。
その中核をなすのが、3リンクリジッドアクスル式サスペンションです。
3リンクリジッドアクスル式サスペンションは、左右のタイヤを車軸(アクスル)で直結し、この車軸をリンクで車体に連結する方式です。
ジムニーの場合、前後ともにこの方式が採用されています。
この方式の最大の特徴は、高い耐久性と優れた路面追従性です。
左右のタイヤが車軸で直結されているため、片側のタイヤが大きく沈み込んでも、もう片側のタイヤが浮き上がりにくくなります。
これにより、オフロードでの走破性が大幅に向上するのです。
また、リジッドアクスル式は、独立懸架式に比べて構造がシンプルで堅牢です。
過酷なオフロード走行でも、サスペンションの破損や変形のリスクが低く、高い耐久性を実現しています。
ただし、リジッドアクスル式にも欠点があります。
それは、オンロード走行での乗り心地や操縦安定性が、独立懸架式に比べて劣ること。
車軸で直結された左右のタイヤが、路面の凹凸を同時に拾ってしまうため、車体の上下動が大きくなりがちなのです。
しかし、ジムニーの3リンクリジッドアクスル式サスペンションは、この欠点を最小限に抑える工夫が施されています。
まず、前後のサスペンションに、適度な柔らかさのコイルスプリングを採用。
これにより、路面の凹凸を吸収し、乗り心地を向上させています。
また、リンク配置も最適化されています。
3本のリンクが、縦方向と横方向の動きを適度に許容することで、サスペンションのストロークを確保しつつ、安定性も高めているのです。
さらに、ショックアブソーバーも専用のチューニングが施されており、オンロードとオフロードのバランスを取りつつ、優れた減衰特性を実現しています。
サスペンション方式 | オフロード走破性 | オンロード乗り心地 | 耐久性 |
---|---|---|---|
3リンクリジッドアクスル式 | ◎ | △ | ◎ |
独立懸架式 | ○ | ◎ | ○ |
このように、ジムニーの3リンクリジッドアクスル式サスペンションは、オフロード走行に特化した設計となっています。
高い走破性と耐久性を実現する一方で、オンロードでの乗り心地や操縦安定性にはある程度の妥協が必要です。
しかし、これはジムニーがオフロード走行を重視した車両であることを考えれば、ある意味で当然の選択とも言えるでしょう。
オンロードでの快適性を追求するのであれば、独立懸架式のサスペンションを採用した一般的なSUVを選ぶべきかもしれません。
ジムニーのオーナーは、この3リンクリジッドアクスル式サスペンションの特性を理解し、オフロード走行を楽しむことが大切です。
この独特のサスペンションが生み出す優れた走破性こそ、ジムニーの最大の魅力だと言えるからです。
R06A型ターボエンジンと低速トルク
ジムニーのパワートレーンを語る上で欠かせないのが、R06A型ターボエンジンです。
このエンジンは、ジムニーの走行性能を支える心臓部とも言える存在です。
R06A型エンジンは、排気量658ccの直列3気筒エンジンに、ターボチャージャーを組み合わせたユニットです。
小排気量ながら、最高出力64PS、最大トルク96N・mを発生します。
特に、低速域から太いトルクを発生させる特性は、オフロード走行に最適です。
一般的に、自然吸気エンジンは高回転域で最大トルクを発生しますが、ターボエンジンは低回転域から高いトルクを発生させることができます。
これは、ターボチャージャーが排気ガスのエネルギーを利用して、エンジンに多量の空気を送り込むためです。
R06A型エンジンは、このターボチャージャーの特性を最大限に活かす設計となっています。
低速域から豊かなトルクを発生させることで、低速での力強い走りを実現。
オフロードでの障害物乗り越えや、急な坂道の登坂などで威力を発揮します。
また、このエンジンは、高い信頼性も備えています。
過酷なオフロード走行に耐えうる堅牢な設計が施されているのです。
例えば、エンジンマウントを従来モデルよりも大型化することで、エンジンの振動を抑制。
また、オイルパンの容量を増やすことで、オイルの劣化を防ぎ、エンジンの寿命を延ばしています。
さらに、このエンジンは、環境性能にも優れています。
燃費効率が高いのはもちろん、排出ガスのクリーン化にも貢献。
ジムニーは、厳しい排出ガス規制をクリアしつつ、高い走行性能を両立しているのです。
エンジン型式 | 最高出力 | 最大トルク | 特性 |
---|---|---|---|
R06A型ターボ | 64PS | 96N・m | 低速トルクに優れる |
自然吸気エンジン | – | – | 高回転域で最大トルクを発生 |
このように、ジムニーのR06A型ターボエンジンは、低速域から高いトルクを発生させる特性により、オフロード走行に最適化されています。
さらに、高い信頼性と環境性能も兼ね備えた、優れたエンジンだと言えるでしょう。
もちろん、このエンジンにも弱点はあります。
ターボチャージャーによる低速トルクは魅力的ですが、レスポンスにやや遅れが生じるのは避けられません。
また、ターボエンジン特有の、アクセルを離した際のエンジンブレーキの弱さも、オフロードでは注意が必要です。
しかし、総合的に見れば、R06A型ターボエンジンは、ジムニーの走行性能を高めるために欠かせない存在だと言えます。
このエンジンの特性を理解し、上手に活用することが、ジムニーを操る上での大切なポイントだと言えるでしょう。
LSD(リミテッド・スリップ・デフ)の効果
ジムニーのオフロード性能を高める上で、LSD(リミテッド・スリップ・デフ)の存在は欠かせません。
LSDは、従来のオープンデフの欠点を補い、より高い走破性を実現するデバイスです。
オープンデフは、左右のタイヤに駆動力を均等に配分する装置ですが、片側のタイヤが空転すると、反対側のタイヤにトルクが伝わらなくなるという弱点があります。
これは、オフロードでタイヤが浮いたり、スリップしたりした際に、車両が動けなくなるリスクを高めます。
そこで登場するのがLSDです。
LSDは、左右のタイヤの回転差を制限することで、片側のタイヤが空転しても、反対側のタイヤに一定のトルクを伝えることができます。
これにより、車両の走破性が大幅に向上するのです。
ジムニーに装着されるLSDは、主にトルセン型やビスカス型が一般的です。
トルセン型は、ウォームギアを用いて左右のタイヤの回転差を制御。
一方、ビスカス型は、シリコンオイルを封入した多板クラッチを用いて、同様の効果を得ます。
いずれのタイプも、左右のタイヤの回転差が大きくなると、自動的にLSD効果が働きます。
これにより、オフロードでのタイヤの空転を最小限に抑え、車両の走破性を高めることができるのです。
ただし、LSDにも万能ではありません。
LSDは、あくまでも左右のタイヤの回転差を制限するだけで、完全にロックするわけではありません。
そのため、極端に滑りやすい路面や、両輪が完全に浮いてしまうような状況では、LSDの効果は限定的です。
また、LSDを装着することで、燃費の低下やタイヤの偏摩耗などのデメリットも生じます。
LSDは、常に一定のトルクを両輪に伝えるため、エネルギーロスが増加するのです。
デフの種類 | 効果 | デメリット |
---|---|---|
オープンデフ | 左右のタイヤに均等に駆動力を配分 | 片側のタイヤが空転すると、反対側のタイヤにトルクが伝わらない |
LSD | 左右のタイヤの回転差を制限し、片側のタイヤが空転しても、反対側のタイヤに一定のトルクを伝える | 燃費の低下、タイヤの偏摩耗など |
このように、ジムニーのLSDは、オフロード走行における走破性を高める上で、非常に重要なデバイスだと言えます。
LSDの働きによって、タイヤの空転を抑え、車両の走行安定性を高めることができるのです。
もちろん、LSDの効果を最大限に引き出すためには、適切な使い方が求められます。
過度に頼りすぎず、あくまでもドライバーの運転技術を補助するものとして活用することが大切です。
ジムニーのオーナーは、このLSDの特性を理解し、オフロード走行に活かすことが重要です。
LSDの効果と限界を知った上で、適切に活用すること。
それが、ジムニーのポテンシャルを最大限に引き出すための鍵となるでしょう。
JA11ジムニーとJB23ジムニーのデフロック事情
ジムニーの歴代モデルの中でも、特に人気の高いJA11型とJB23型。
この2つのモデルは、それぞれの時代背景を反映し、デフロックの設定に違いがあります。
まず、JA11型ジムニーは、1990年から1995年まで生産されたモデルです。
このモデルは、当時のジムニーの中では最もオフロード性能に優れた設定となっていました。
デフロックに関しては、リアデフロックがオプション設定されていました。
JA11のリアデフロックは、機械式のロッカースイッチタイプ。
これは、運転席の横にあるスイッチを手動で操作することで、リアデフをロックするシステムです。
オフロードでの走破性を高めるために、多くのユーザーがこのオプションを選択したと言われています。
一方、JB23型ジムニーは、1998年から2018年まで生産された、ジムニーの歴史の中で最も長く販売されたモデルです。
このモデルでは、デフロックの設定が大きく変化しました。
JB23には、純正のデフロックが設定されていません。
代わりに、電子制御のブレーキLSDトラクションコントロールが標準装備されました。
このシステムは、前述の通り、空転しているタイヤにブレーキを掛けることで、反対側のタイヤに駆動力を伝えるというもの。
純正のデフロックこそありませんが、オフロードでの走破性は十分に確保されていました。
ただし、JB23にもデフロックを装着することは可能です。
市販のアフターパーツとして、様々なデフロックキットが販売されているのです。
機械式のデフロックから、空圧式、電子制御式まで、様々なタイプが存在します。
特に、JB23の後期型(2012年以降)では、電子制御式のデフロックが人気です。
これは、ボタン操作で簡単にデフロックの ON/OFF が可能で、利便性が高いからです。
ただし、後付けのデフロックは、純正の設定に比べてコストがかかることは避けられません。
モデル | デフロック設定 | 特徴 |
---|---|---|
JA11 | リアデフロックがオプション設定 | 機械式のロッカースイッチタイプ |
JB23 | 純正のデフロックは無し。ブレーキLSDトラクションコントロールが標準装備 | アフターパーツとしてデフロックキットが販売されている |
このように、JA11とJB23では、デフロックの設定に違いがあります。
JA11は、純正のリアデフロックを装着することで、高いオフロード性能を得られました。
一方、JB23は、ブレーキLSDトラクションコントロールによって、デフロックなしでも十分な走破性を確保。
アフターパーツのデフロックを装着することで、さらなる性能向上が可能です。
ジムニーのオーナーは、自分の車のデフロック設定を理解し、用途に合わせて適切に選択・活用することが大切です。
純正の設定を生かすのか、アフターパーツでカスタマイズするのか。
それぞれのアプローチに一長一短がありますが、いずれにせよ、デフロックはジムニーのオフロード性能を高める上で欠かせない装備だと言えるでしょう。
LSD取り付け工賃と純正デフロックの価値
ジムニーのオフロード性能を高めるために、LSDの取り付けを検討するオーナーは多いでしょう。
しかし、LSDの取り付けには、一定のコストがかかることを理解しておく必要があります。
まず、LSDの取り付け工賃ですが、これは車種や取り付けるLSDのタイプによって異なります。
一般的に、機械式のLSDは比較的安価ですが、取り付けには専門的な知識と技術が必要です。
そのため、工賃は高くなる傾向にあります。
一方、電子制御式のLSDは、取り付けが比較的容易で、工賃も安く抑えられます。
ただし、電子制御式のLSDは、機械式に比べて高価です。
LSDの価格と工賃を合わせると、かなりの出費となることは覚悟しておく必要があります。
具体的な数字で言うと、機械式LSDの取り付け工賃は、平均で約10万円から15万円程度。
電子制御式LSDの場合は、工賃が約5万円から10万円程度になります。
これに、LSD本体の価格が加算されます。
ここで、純正のデフロックの価値について考えてみましょう。
前述の通り、JA11型ジムニーには、純正のリアデフロックがオプション設定されていました。
このデフロックは、機械式で確実な動作が保証されており、オフロードでの走破性を大きく高めてくれます。
JA11の純正リアデフロックは、現在では非常に貴重な存在です。
中古パーツ市場では、高い価格で取引されているのです。
それだけ、純正デフロックの性能と信頼性が評価されている証拠だと言えるでしょう。
一方、JB23型ジムニーには、純正のデフロックが設定されていません。
そのため、JB23のオーナーがデフロックを装着する場合は、アフターパーツを選ぶことになります。
純正品のような確実性は期待できませんが、性能面では純正以上のものも存在します。
モデル | LSD取り付け工賃 | 純正デフロックの有無 |
---|---|---|
JA11 | 機械式:約10万円から15万円 | リアデフロックがオプション設定 |
JB23 | 電子制御式:約5万円から10万円 | 純正デフロックは無し |
以上のように、ジムニーのLSD取り付け工賃と純正デフロックの価値は、車種やLSDのタイプによって大きく異なります。
純正デフロックが設定されていたJA11は、その希少性からも高い価値が認められています。
一方、JB23のオーナーは、LSDの取り付けにかかるコストと、純正品ではないことのリスクを天秤にかける必要があります。
LSDの性能向上効果は大きいですが、それだけの投資に見合うかどうかは、慎重に判断しなければなりません。
いずれにせよ、ジムニーのオフロード性能を高めるために、LSDやデフロックは非常に効果的なアイテムです。
コストと効果のバランスを考えつつ、自分の車に最適な選択をすることが大切だと言えるでしょう。
デフロックがなくてもジムニーが走破できる理由
ジムニーは、デフロックを装備していなくても、高い走破性を発揮することができます。
その理由は、ジムニーの優れた基本設計にあります。
まず、ジムニーは軽量でコンパクトな車体を持っています。
車重が軽いということは、タイヤへの接地荷重が小さく、タイヤが地面を掴みやすいということを意味します。
これは、特にオフロードにおいて重要な要素です。
また、ジムニーは、ラダーフレーム構造を採用しています。
これは、車体を梯子状のフレームで支える構造で、剛性が高く、ねじれに強いのが特徴です。
オフロードでは、車体のねじれが走破性を大きく左右しますが、ジムニーのラダーフレームは、そのねじれを最小限に抑えてくれます。
さらに、ジムニーは、前述の通り3リンクリジッドアクスル式サスペンションを採用しています。
このサスペンションは、車軸で左右のタイヤを直結するため、片側のタイヤが持ち上がっても、反対側のタイヤは地面を捉えやすくなります。
これも、オフロードでの走破性を高める重要な要素の一つです。
加えて、ジムニーには、高い最低地上高と優れたアプローチアングル、ディパーチャーアングルが与えられています。
これにより、大きな障害物を乗り越える際に、車体が地面に接触するリスクが低減されます。
エンジンについても、ジムニーのR06A型ターボエンジンは、低速域から高いトルクを発生します。
オフロードでは、高速より低速での粘り強い走行が求められますが、このエンジン特性は、まさにオフロード走行に最適なのです。
そして、ジムニーには、ブレーキLSDトラクションコントロールが装備されています。
これは、空転しているタイヤにブレーキを掛けることで、反対側のタイヤに駆動力を伝えるシステムです。
デフロックほどの効果はありませんが、オフロードでの走破性を大きく高めてくれます。
ジムニーの特徴 | オフロードでの効果 |
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軽量でコンパクトな車体 | タイヤの接地性が良い |
ラダーフレーム構造 | 車体のねじれを抑制 |
3リンクリジッドアクスル式サスペンション | 車軸で左右のタイヤを直結し、片側のタイヤが浮いても反対側のタイヤが地面を捉えやすい |
高い最低地上高と優れたアプローチアングル、ディパーチャーアングル | 障害物を乗り越える際に、車体が地面に接触するリスクが低い |
R06A型ターボエンジンの低速トルク | 低速での粘り強い走行が可能 |
ブレーキLSDトラクションコントロール | 空転しているタイヤにブレーキを掛けることで、反対側のタイヤに駆動力を伝える |
このように、ジムニーは、デフロックを装備していなくても、その優れた基本設計によって高い走破性を発揮することができるのです。
軽量な車体、ラダーフレーム、3リンクリジッドアクスル式サスペンション、高い最低地上高、低速トルクに優れたエンジン、ブレーキLSDトラクションコントロールなど、オフロード走行に最適化された様々な要素が組み合わされているからこそ、ジムニーは多くのオフロード愛好家から支持されているのです。
もちろん、デフロックがあればさらに走破性は高まります。
しかし、デフロックがなくても、ジムニーは十分にオフロードを走破する能力を持っています。
それが、ジムニーの最大の魅力であり、長年にわたって愛され続けている理由なのです。